下町ボブスレー空力担当企業インタビュー

2016年の春から初夏にかけて新しい下町ボブスレーの設計が進行中である。下町ボブスレーはこれまでマイナーチェンジは何度か行われてきたが、フルモデルチェンジはロシアソチ五輪へ向けての2・3号機製作以来の2度目となる。

これまでの改良でえられた経験やデータを元に空力からフレームの細部に至るまで見直されている。しかも今回はジャマイカ代表の技術チームも加わり、新しい下町ボブスレーが生まれようとしている。そこで現在設計段階で空力の解析を担当している(株)ソフトウェアクレイドルの藤山氏に日々の仕事の事から空力についてまでをインタビューで伺ってみた。

ンタビュー【ソフトウェアクレイドル:藤山敬太氏】

FDとは

――率直にお聞きしますが(笑)ソフトウェアクレイドルさんってどんなことをしている会社なんですか?

藤山―そうですね。CFD(Computational Fluid Dynamics)といわれる熱流体解析のソフトウェアを開発・販売する会社となります。また、そのソフトの使い方をコンサルティングしたり、熱流体解析の受託業務などをしています。

――いきなりCFDという専門用語がでてきましたね・・・

藤山―CFDソフトウェアは、空気の流れや熱の移動などを計算できて、目に見えない流れや熱を目に見えるように表現することができるんです。試作品を作る前にコンピューター上でさまざまな状況を予測することができるツールといえますね。

―それはボブスレー開発にもいえますか?

藤山―はい。ボブスレーは価格にすると1つのソリでフェラーリが買えてしまうぐらい高価なものです。そうしたものを実際に作る前にCFDソフトを使って形状を検討することができます。

―でも実際のコースを走らせるのとコンピューター上では違いますよね?

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藤山―そうですね。ボブスレーの場合、車やレーシングカーなどと同じように一般的な開発の流れとしては、まずCFDや風洞と呼ばれる実験施設で形状を決めていきます。ただ、こういった実験や計算では実際のコース上の状態を完全に模擬することはできません。そこで両者の違いを把握し、風洞やCFDというツールを設計開発でどう活かすかが重要だと思っています。

 

―そのCFDソフトはボブスレー以外にどのような分野で応用されているんですか?

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藤山―やはり自動車分野は多いです。燃費を良くするためのスタイリングだけでなく、エアコンのダクト設計など様々な部位で利用されています。身近なところだとテレビやスマホの設計でもCFDは使われているんですよ。また変わったところでは学校の教室内の空調設計でもCFDは使われています。室内の空気の流れによるインフルエンザなどの細菌の拡がりをコンピューター上で予測するんです。室内の空調はイスとかテーブルの位置によっても変わりますが、それも含めてソフトでシミュレーションすることができます。そういった建築の分野でも応用されていますね。

町ボブスレーについて

―ソフトウェアクレイドルさんは下町ボブスレー1号機から空力開発をやっていただいてます。空力的な面からこれまでのモデルについて教えていただけますか?

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藤山―1号機の時はゼロからの手探り状態でした。そこでまずは仙台大学から借りたソリを基準にして、そこからいかに空気抵抗を減らせるかをCFDソフトを使いシミュレーションしながら開発しました。レギュレーションというソリの決められたルール内で最大限空力性能を追求していった結果、ソリのサイズは規定上で最大のものとになりましたが、空力性能は15%改善され理論上は0.5秒早くなるという結果がでました。

次に、2号機はコンセプトとして小型かつ軽量を目指したので、その制約の中で形状をつくっていきました。そして、今回の新モデルは春先から考えていた形状があったのですが、ジャマイカの技術ディレクターが来日しソリの形状を共同で検討することで、さらにブラッシュアップされました。その方はBMWとのソリ開発経験もあり、とても刺激的でした。

―第3世代の新モデルの下町ボブスレーのシミュレーションも長い時間と労力をつぎこんでいただいてます。

藤山―今回の新ソリ開発は、原点に戻り、一から時間をかけて深く空力を追及しています。またこれまで以上に何度も大田区に足を運び、町工場の方々と議論を重ねてよりよい設計を進めてきました。

―単純な事聞いていいですか?CFDで空気抵抗を10%減らすことができたら実際にはどれぐらい速くなるんですか?

藤山―10%低下させるとだいたい10N(ニュートン)つまり1kg空気の抵抗を減らせます。ある研究によると空気抵抗を3%減らせば0.1秒タイムが上がると言われているのですが、世界戦となるとその0.1秒が勝負の分かれ目になってくるので、できる限り細部にこだわりたいですね。

事について

―藤山さんはなぜこの仕事をやろうと思ったのですか?

藤山―高校生の頃からレーシングカーをつくりたかったんです。それで理工系の大学に進学して、大学院に進み、レーシングカーの開発をする会社に就職しました。その後、それまでの経験を活かせる仕事として、現在のCFDソフトウェアメーカーにて業務に携わっています。現在の仕事は、ものの流れという目では見えないものを見ようするところに惹かれますね。

―普段どんな仕事をされていますか?

藤山―販売したソフトウェアをユーザー様が使いこなせるようにサポートすることが主な業務です。単純な使い方だけでなく、設計開発における有効な活用法等のコンサルティング的な仕事も行っています。

―パソコンの前にいることが多いんですか?

藤山―コンピューターソフトウェア会社なので社内ではパソコンの前にずっと座って仕事している人が多いのですが、私はオフィス内外でふらふら歩いて人と話している事が多いです。営業と調整したり、開発と相談したり、時には文句をいったり(笑)普段からのコミュニケーションが大事ですね。

―ボブスレーの空力計算ではスーパーコンピューターで1週間?ぐらい計算したと聞きました。

藤山―現在行っているボブスレーの計算は、10年以上前なら大学のスーパーコンピューターで1週間かけていた計算になります。それが現在では、企業にあるコンピューターでも数時間でできるようになりました。ただ、特に今回のボブスレー空力開発では、短期間で様々な形状を検討したため、何台もパソコンを繋いだシステムを結局1週間以上フル稼働させていました。

―ボブスレーの空力開発を通じてきづいたことはありましたか?また業務に活かせたことってありましたか?

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藤山―業務に活かせたといえば、社内の新しいソフトウェア製品を積極的に試した事例にすることができました。普段の業務ですと、なかなか新しい手法を取り入れることが難しいですので、また、普段以上に流体解析に馴染みがない方へ説明する機会が多かったですが、CFDソフトの視覚的にわかりやすく伝えることができるという特徴は非常に有効で、それを最大限活かして開発段階での議論につなげていく非常によい経験ができたと考えています。

株式会社ソフトウェアクレイドル

cradlelogo_squareソフトウェアクレイドルはCAE(コンピューターによる技術支援システム)の中で流体解析(CFD)を得意とするソフトウェアエンジニア集団。流体解析ソフトウェアの開発、販売、コンサルテーションまで一環したサービスを提供し、製品は自動車、電子機器、航空、建築等の産業の設計部門で不可欠な設計支援ツールとして利用されてる。そのクオリティーの高さから、国内外で高い評価を獲得し多くの技術賞も受賞しており、多くの製造業や建設業をサポートしている。
http://www.cradle.co.jp/